『体育日和(後編)』
 

 


ついに始まったクラス対抗男子リレー・・・
卑怯にも5組のクラスは、この試合のために優秀な陸上選手をあててきた
いや、卑怯なんて言ってはいけない。
これも戦法のひとつ・・・って普通なら言える
けれど・・・これじゃどう見たって卑怯よ!!
これじゃ赤也君も、勝てる試合でも勝てないわ
『白・・・どうしよう?』
『あいつが言った事だ、どうしようもない』
白の言う事も一理ある。というかそれしか考え付かない・・・
華翠ちゃんはどうなんだろ?
不安じゃないのかな?
『頑張れ赤也
———!!負けたら承知しないんだからッッ!!』
そんな考えを吹き飛ぶくらいの応援
華翠ちゃんは赤也君の絶対勝利を信じてる
私も、ごちゃごちゃ考えるのはやめよう
『頑張れーー!!』


『ふん、羽下負けを認めるなら今のうちだぞ?』
『あん、何だって?何にも聞こえねぇぞ〜?』
男の額に血管が浮かぶ
もちろ赤也には聞こえていた。負けを認めるなら今のうちと。
しかし、まだ勝負もしていないのに・・・まして負けるとわかっている試合でも
赤也が負けを認める事はまずない。
どんな時もそれは同じ・・・


「赤也〜!!絶対だめだって、勝てないよ」
「うるさいな!勝つったら勝つんだよ!!」


『お、おい羽下。本当に大丈夫なのか?』
不安になったクラスメートが話しかけたきた。
確か名前は・・・忘れた
覚えていたとしても特に役に立つことはないので
赤也は、クラスのほとんどの生徒の名前を覚えていない
覚えているのは、華翠、佐倉、白
(クラスメートではないが)、学級委員長・・・ぐらいだ
『自分で考えろ、まぁ負ける気はしねぇが』
クラスメートはやはり怯えながら列に戻っていった
赤也的には、別に暴力やパシリにした事もないし、脅した覚えもない
だが、周りは怯え避けていく。
寄ってくる奴達といえば、不良やさっきのデブみたいなやつ
別に気にはしないが・・・正直うざい
『では、一番走者の人並んで下さい』
運動会用のピストルを持った係員が呼ぶ
赤也はもちろんアンカーなのだが、人数の関係一番も走る事になっている



『それでは用意・・・』
パンッッ!!という規則正しい音が鳴り響く
その音と共に5人の走者がスタートした
一番は・・・赤也君
二番は・・・5組の選手
だけど、1位と2位にはあっという間に差が開く
『うわ、赤也君早い!!』
もう交代になった
バトンを不安そうに受け取る第2走者
赤也君が何か言ってたような気がしたけれど、ここからじゃ何も聞こえない
『赤也のやつ・・・手、抜いてやがる』
『へ?』
『最後に勝負かけてるんだろ?あいつの性格上、バクチ好きだし』
バクチ好き・・・つまり、最後のさいごまで勝負をひっぱる
というか、勝つか負けるかわからない状況の方が燃えるという人の事
・・・こんな時に何してるの赤也君!!
華翠ちゃんがかかってるのに!!

そうこうしている内に1位と2位が交代
5組の走者がどんどん差を広げていく
4組も懸命に頑張ってはいるが、差は縮まらない
他のクラスは・・・もう半分諦めている感じだった
『へへ、羽下もういい加減に』
『うるさい病人顔』
一刀両断とはこの事だろう
男子は顔の事を気にしていたらしく相当ショックを受けていた
そんな事を知ってか知らずか・・・きっと知らないだろう
赤也は走者を真剣に見つめていた
走者はといえば、皆血相を変えて走っている
クラスの人達も一体何があったのか心配になった
『・・・わかってんだろうな』
赤也が呟いた。その声にまわりにいた生徒は震え上がる
もう帰りたい、もうさっさと終わらせよう
そんな声が生徒達の心の中に響いていた

『おお〜っと!!5組アンカーにバトンが渡りました!!懸命に4組追いかけます!!』
とうとう5組のアンカーがバトンを受け取ってしまった
4組はといえば、まだコーナーを曲がったところ・・・
約半周遅れである。
『だ、大丈夫なのかなぁ?』
『赤也次第・・・』
『あいつ、これ終わったら呼び出しよ』
華翠ちゃんの後ろに熱く燃える炎が見えたのは気のせいだろうか?
周りの生徒が怯えているけれど、これも気のせい?
きっと気のせいだろう。
赤也君、リレーで勝っても負けても華翠ちゃんの鉄建喰らうんだろうなぁ・・・
『4組のアンカーにバトンが渡りました!!しかし5組とは歴然の差!どうする4組!!』
どこぞの実況中継かと思えるほどの放送
赤也君にバトンが渡ったのだ
前の走者は必死だったのだろう、貧血で倒れこんでしまった
そんな事は気にしない性分の赤也君は5組のアンカーを追う
・・・本当に大丈夫かな?前の走者の人
赤也君はやはり早かった
さっきまであった差がどんどん縮まっていく
けれど5組のアンカーはもうゴール直前
皆がどうなるのか・・・結果を待った




体育大会も終わり、空は赤夕焼けとなっていた
皆各自自宅へと戻ったあとだった・・・
が、赤也だけ教室で自分の席に座っていた
『帰らないの?』
佐倉は話しかけるが、首を横に振り無言のまま外を見ていた
白が、先に帰ると赤也に伝え佐倉とともに帰ったいった


『はぁ・・・』
赤也は深いため息をつき、そのまま机に倒れこんだ
『何、あんたらしくない』
『疲れたんだ・・・』
そう、疲れた
あんなに本気を出したのはいつぶりだろう?
ここ最近本気を出した事なんてあったか?
覚えているので、中2の時との白との試合
『そんなに疲れるなら、初めから本気だしてろ馬鹿』
そう言うと華翠は赤也の後頭部を殴った。もちろんグーで
『痛ってぇ!!そんなの人の勝手だろ?!』
『今日は勝手も何もないでしょ!!』
今日は、赤也のせいで華翠がどんなキモチになったか
赤也もわかってはいるが、どうも素直になれない
華翠の前だと余計に・・・
『まったくあんたは・・・勝ったからよかったものの』


今日のリレー・・・運がよかったのか
アンカーがゴールする直前に赤也が先にゴール
つまり、ほぼ同時ゴールだったのだ
5組のアンカーは、赤也が追いつけるはずないと思っていたらしく
後ろに赤也がいて驚きスピードを落としたのだという
もし、アンカーが驚かなかったら赤也は負けていた。だが、
『本気出すまでもない』
と、赤也は自慢げに言った


『もう、こんな馬鹿につきあってらんないわ・・・先に帰る!!』
そう言って華翠がかばんを持って帰ろうとした
赤也もふてくされ、華翠の言葉を聞かぬ振りをした
けれど、まさか自分がこんな行動にでるなんて
『なによ?』
華翠がなぜかこちらを振り向いて聞いてきた
赤也には何の事だかさっぱりわからなかった
『腕』
華翠が短く伝え、顎で場所を刺す
気が付けば赤也の手がガッチリと華翠の腕を掴んでいた
赤也は顔を一瞬にして夕暮れよりも赤く染めた
『なななな、何でもねぇ!!帰る!!』
『な、待ちなさいよ!!あたしが先に帰るって言ったのよ!!』
『知るか!!俺が先ったら先だ!!』
『あたしが先っだての!!』


二人の言い合いが誰もいない校舎で響き渡る
この言い合いは家まで続いたとか・・・




その頃、貧血で倒れた走者とその他の走者は
『よかった・・・勝ててよかった』
『神様ありがとう!!』
『負けたら、わかったんだろうな?だぞ!!』
『怖ぇよ!!俺もうダメだと思った・・・』
『羽下やっぱ怖ぇよ!!』
『『『『『もう、リレーなんて絶対しない』』』』』

 

 

【完】

 




後書き


いやはぁ!!やっと終わりましたよ続き物!!
リレー・・・勝ちましたねvvって怜が書いてるんだけど;;;
あの時赤也が呟いたのは、走者が言ってる通り
【負けたらわかってんだろうな】
です!!しかも超笑顔で・・・黒いです、笑顔が黒い
(ガクガク
この事を知ってるのは赤也と走者、つまりリレー選手のみです
もうこんな怖い体験はしたくないでしょうね;;;っと、大事なコト忘れてました!!
華翠と赤也ですが、進歩ありませんでした
あったとすれば、赤也のあの行動ぐらいです
けど二人共何も気付いてません・・・たぶん赤也本人も
今後進展すればいいなと思っている怜でした!!