会って欲しい人がいるんだ・・・
そう言われたのは、確か酷い雨の日だった
 



『Eternel〜ジューンブライト』

 


ざぁざぁと五月蝿い音をたてて、雨は勢いを増してきた。カエルが嬉しそうに鳴いている。
雨がずっと降らないのは世界的に不都合だが、こうも長い間降られるのは正直迷惑だ。
今まで読んでいた本をベッドに投げ、「雪村白」はリビングへと向かった。
リビングへ行くと、先程まで誰かいたのか付けっぱなしのテレビから今日は雨が凄いですねぇ〜という女の声が聞こえた。
今日は、じゃなくって今日も、だろうと心の中でクレームをぶつけながら冷蔵庫からお茶を取り出す。
相変わらず雨が酷く降っている。きっと明日も雨だろうと思った。

 
 
ピンポーン
 

 
一度だけ、インターフォンが鳴った。こんな時間に誰だろう・・・只今の時刻15時
急いで訪問者を確かめに行くと、そこにはずぶ濡れになった男と女、そして同じ年くらいの少年が立っていた。
『・・・おかえり』
『ただいま白・・・やっぱりこの格好、何も言わないんだ』
気にはなった。でも別に聞かなくってもいいだろうと思った。ただ、それだけ。
横に立っている女性も苦笑していた。そんなにおかしな事だろうか?
『とりあえず入ったら?タオル、持ってくるよ』
急いでさっきいたリビングへと戻る。後ろから、しっかりした子ねと女性が男に話している声が聞こえた。
よく言われる言葉だった。しっかりしている、偉いねと。もう何とも思わない言葉。

 
男にタオル3人分きっちりを渡し、自分の役目を終えたので自室に戻ろうと思った。
まだあの本も読みかけだったし、何よりこの空気は耐えがたかった。
『白・・・ちょっといいか』
だけどそれは無理な事だとわかっていた。この状況で、気がつかないわけがない。
この二人は・・・
『前に言っていただろう?会ってほしい人がいるって。彼女が、そうなんだ』
『初めまして白君、こんな格好でごめんね』
この二人は結婚するんだ。それぐらい、わかっていた事だった。
二人の事だから二人で勝手にすればいい。自分は何も言う権利などないのだから。
勝手に幸せやってくれ、そう他人事だと思っていた。
『これからこの人と、一緒に暮らすんだよ白』
『暮らす・・・?』
意味が、わからなくなった。結婚するなら勝手にしてくれ、出て行くなら勝手に出て行けばいい。
だが、これは勝手にも程がある。暮らすんだ・・・これはもう未来系。変わる事のない。
自分には反対する義理も何もない。この人と・・・この男と俺が
『父さん・・・俺、何も聞いてないんだけど』
『あぁ・・・そうだな、悪かった』
この男と俺が親子だったとしても。それは非力な事だけど、変わらない事実。
子供なふりして、黙って聞いた。自分の父親から聞かされた話。理解していないフリをした。
『だから、この人がお前の母親になr』
『知らないよ、そんなの・・・勝手にすれば?俺、部屋に戻るから』
読みかけだった本を読みたいだけ、部屋に戻って休みたいだけ。ただそれだけ、逃げたわけじゃない。
なのに、歩く速度が上がっていく。気がつけば必死に自分の部屋に駆け込んでいた。
真っ暗な部屋、電気をつけるのを忘れた。今は無理だ、腰が上がらない。
雨が勢いを増す、カエルの声が消えていった。
 


 
 
何日かして、二人の結婚式が開かれた。
祖父も祖母も喜んでいた。やっと再婚してくれた、やっと回りに目を向けてくれたと。
相手の方も喜んでいた。だけど、親はいなかった。後から聞いて話、親は早くに亡くなったらしい。
そして、あの時一緒にいた少年は女性の弟だった。
弟さんは、この結婚をどう思っているんだろう?まだ、一度も話したことのない相手だけど少し気になった。
女性は俺達と一緒に暮らす、母親になるから。では弟さんはどこに?
一緒に暮らすなんて話は聞いていない。また後から言われるのか、それとも・・・
『白、どうしたんだい?』
一人で考え事をしていたせいか、祖母が心配気に話しかけてきた。
祖母なら知っているだろうか?相手の親の事も祖母から聞いた。白の中では祖母は何でも知っている知恵袋的な存在だった。
『弟さん、どうするんだろって考えてた』
『弟・・・あぁ、自由君ね。あの子ならアメリカに引き取られるみたいだよ』
『アメリカ?!』
祖母はゆっくりと詳しく、白にも分かるように丁寧に教えてくれた。
元々、自由は孤児という名を持たされていて里親的な人物がアメリカにいるらしい。
今までは姉が引き取っていて育ててきたが、経済的・環境的に向こうの方がいいとなったらしい。
らしいというのは、祖母の話は詳しく丁寧なのはいいのだが、まとめる作業が難しくわかりずらいためである。
『じゃぁ・・・お別れか』
同情だとか、したくなかったけどこういう場合はそうするしかなかった。
一度も話した事のない相手だけど、何だか可哀想に思えてきた。そして同じなんだと思った。
『少し、お話してきたら?』
祖母が心を読み取ったかのように白に微笑みかけた。そして視線をある先に向ける。
自由が一人で立っていた。そう自分と同じように、何かを考えていた。
別に話す事も思いつかなかったし、話した所で何も変わらないだろうと思った。でも、何か話そうと思った。もう足が動いていた。
 


 
『何、してるの?』
自由は下向き加減で地面を蹴り飛ばしていた。綺麗だった靴が傷だらけだ。
『別に・・・何も』
そりゃ誰だってそう答えるだろう。ただ地面を蹴飛ばしているだけなのだから。
そう、白が聞きたかったのはそういう事じゃない。今、どういう気持ちなの?という事だった
『あんたさぁ・・・姉ちゃんの息子になるんだろう?』
初めて自由が目を合わせてくれた。綺麗な、まっすぐな目でこちらを見ている。
『うん、そうみたい。』
『いいなぁ・・・俺も姉ちゃんの息子になればよかった』
ははっと小さく笑って見せた自由は、この前の印象とまったく違って見えた。
チラッと見ただけだったけど、あの時の自由はまったく笑顔なんて持ってるように見えなかった。
『なっても、同じだよ』
『・・・そうかなぁ』
『そうだよ。そうなったって・・・同じだよ』
いつかは離れてく存在。それが例え親子でも姉弟でも同じ事。ずっと傍にいる事なんて叶わない
それを、いつ知ったのだろう?いつ覚えてんだろう?鮮明に覚えている光景を、記憶の中から抹消した
『離れるなよ』
『は・・・?』
『姉ちゃんから絶対離れるなよ。俺は離れるけど、あんたは離れるな』
『何、意味のわからない事言ってるんだよ。離れるの離れないのは相手の勝手だろう?』
『前まではそうだったかもしれないけど、今度は違う。あんたがしっかりしないと』
自分の頭がおかしい訳じゃない。誰も難しい事を言ってるわけじゃない。
ただ、自由の発言を聞きたくなかった。それだけ。
『何年かしたら、またこっち戻ってこれるんだって俺』
『え・・・そう、なんだ』
『その時に、ちゃんと繋ぎとめてるか見に来るから・・・    』
自由はそう言ってどこかに行ってしまった。人ごみが隠してしまった。
頑張って、白。
そう言ったように、聞こえたんだ。
 




 
それから何年かして、女性と父親と白の3人暮らしもだいぶ様になってきた。
呼び名も彼女ではなく、母さんと呼ぶようにもなった。認めた、といえばそうだろう。
『ほら白、この料理はどう?おいしそうでしょう?』
『うん、いいんじゃない?昨日の焦げた魚よりもおいしそうだよ』
『・・・それは言わない約束でしょう?』
こんな馬鹿げた会話も出来るようになった。成長したんだろう。
周りが笑顔で、吊られて笑顔になる自分。
繋ぎとめておきたくて、必死に好かれようとしている気もするけど。
それが自由の言っていた「頑張れ」なんだろうか・・・。
『そういえば、今日は自由がここに来る日だったよね?』
『そうそう!だから料理は気合ばっちりよ!!!焦げた魚なんて出せないからね』
『自分で言ってるし・・・』
今日は約束の日、きちんと繋ぎとめてるか確認される日だ。
自信たっぷりに言ってやろう、必死に格好悪く繋ぎとめてるぞ・・・って。



 
 
誰だってそうだろう、誰かに傍にいてもらいたくて手を差し伸べ続けてる。
誰かに愛してもらいたくて、尻尾を振る続けてる。
それが例え格好悪くても、それが一番自分のために出来る事なのだ。
そして俺は今・・・

 
『あ、白!!ごめんね、待った?』
『いや、今来た所だよ。佐倉、そんなに走らなくても時間間に合ってるんだから』
『でもでも、白が立ってるのが見えてヤバイー!ってなっちゃって・・・でも、間に合ってよかった!!』
『そうだね・・・じゃぁ行こうか』
『うん』
そして俺は今、彼女を繋ぎとめようと格好悪くも手を差し伸べ続けている。
 
 




後書き

白バージョン完了〜vvみたぃな
(
暗い話になっちゃいましたねぇ・・・本当は明るくやっほぉ〜ぃ!!的な話にするつもりだったのですが><;
自由バージョンでも言いましたが、6月といえば結婚の時期!!という事で、この話作っちゃいました。
自分的にもこれは紹介せねば!!と思っていたストーリーだったので、皆さんに紹介できて自己満足でありますvv
(
簡単に説明すると、自由と白は叔父・甥っ子関係なんですょ。
でも年が近いため、従兄弟って事にしてるんですが・・・超複雑すぎて自分でも頭が爆発状態!!!
まぁとりあえず説明できて良かったと思います。
こんな自己満足小説読んで下さってありがとうございます。
よろしかったら自由バージョンも読んでやって下さいましvv