あれは何年前だろう・・・。

あの日も今日と同じ、雨の日だった。

 

 

『Eternel〜ジューンブライト』

 


 
長い長い嫌な音、いつまでも響く螺旋音。窓にあたっては下に落ちていく。

天気は雨のち晴れ。どっかの誰かがテレビでそんな事を言っていた。

外は雨、中はじめっとした空気。欠伸をかみ殺して「自由」は窓を見つめた。

今日は家にずっと一人。家の者は皆出かけてしまっていて、誰もいない。

遊び相手がいないのは寂しい事。広い部屋でごろごろと隅から隅へと転がってみる。

見える景色が変わる。壁、本棚・机・ゴミ箱・机・本棚・壁。

また同じになってしまった。また振り出しに戻ってしまった。

さて次は何して遊ぼう?誰かいじりに行こうか?誰がいい?

ピンポンピンポンピンポンピンポーン!!

インターフォンが鳴った。それはもう何回も、五月蝿いくらいに。

急ぎの用か、それともついに親父が借金に手を出してしまったか・・・。

重たい腰を上げて、うるさく鳴り響くドアへと向かった。

『は〜い?どちら様ですかぁ〜?』

『美人で綺麗で道を歩くだけで周りの男が卒倒するくらいにキューティなお姉様よ!!』

早口に一つも噛む事なくおかしな発言をした女性。正体は自由の姉だった。

10以上年の離れた姉は、今日は確か会社に出勤に行ったはず・・・

今の時刻は12時30分、お腹でも空いたので帰ってきたのか?不真面目な大人だ。

『そんな人はいません。お引取り下さい』

『んな事言ってないで、早く開けなさいよ!!!!』

早くしないとドアをぶち壊すとまで言い出し、声だけで威嚇された気分だ。

仕方なく玄関まで全力疾走で行き、閉まっていた鍵を開けてやった。合計5秒の早技だ。

姉のこんな行動は今日に限った事ではないので、身についてしまったのだ。哀れな自分、そう自由は思った。

そういえば前に、あんたは私所属の鍵職人ね!!とまぶしいくらいの笑顔で言ってくれた事があった。

『はい、どうも〜!!』

『今日は早いんだね、どうしたのさ?』

『・・・まぁ、色々と』

様子がおかしかった。目を逸らして、何か隠してるのはバレバレだった。

しかし誰でも隠し事なんてあるだろうと、あえて深くつっこまなかった。

それに姉が帰ってきたという事は遊び相手が出来たという事。これで暇から脱出できる。

喜んだ。喜んだのに・・・

『失礼します・・・あ、弟さん?』

誰だろう、この人は。見た事のない人が家に入り込んできた。

その人はきっちりとしたスーツ姿で、髪は珍しく銀髪で整った顔によく似合っていた。

『・・・泥棒?』

思った感想をはっきり述べただけだ。誰かも知らないんだから、それ以外に思い当たらない。

『違うっつの!!この人は雪村さん。あんたのお兄さんになる人よ』

姉の言葉が、理解できなかった理由は頭が悪かったからだけではない。

お兄さんという言葉、なる人という未来系の言葉。

自由は目を点にしてその場に立ち竦んだ。雪村さんを見上げる形で、動けなくなった。

『はじめまして、それとこんにちは自由君』

『今日早く帰ったのは、この人をあんたに紹介するため。あんた夜寝るの早いでしょ?』

『そうなのか?まぁ、寝る子は育つって言うし』

放心状態の自由を置いて二人で楽しげに会話を始めた。自由には訳がわからなかった。

この男がお兄さんになる、つまり二人は・・・結婚するという事だ。

その言葉を思い浮かべると、心臓が痛くなった。何かが締め付けられてる気がした。

『・・・い』

『え、自由?』

言葉が出なかった。言いたい事があるのに、言葉が出なかった。言ってはいけない気がしたんだ。

とりあえず玄関で話すのもおかしな光景だと気がつき、中に入ってもらう事にした。

 

 


やっぱり、二人は結婚するらしい。しかも雪村の方は子持ちだそうだ。

子供の名前は『白』俺の一つ下らしい。

『それでね、私は雪村さんと白君と一緒に暮らす事にしたの。』

その中に俺の名前がなかった。嫌な予感がした。急いで逃げようかと思った。

だけど、逃げてはいけない。誰かがそう言った気がした。

『それで・・・あんたは、アメリカのおじさんの家に行く事になった』

『いつ?』

『・・・今月中には』

『そんなの・・・そんなの聞いてない』

ごめん、そう姉は呟いただけだった。それ以外、何も話してくれなかった。

隣で雪村さんもそんな姉を見ているだけで、何も言わなかった。姉がそうしてくれと頼んだのだろう。

結婚って、二人の幸せを掴むためにするものだ。だから自分が何を言っても意味がない。

分かっていた。わかってはいたけど、とめられないんだ。

『そんなの、そんなの勝手に決めんなよ!!!俺は嫌だ、絶対に嫌だからなっ!!!!』

叫んでやった。自分の気持ちを声にしてやった。

だけど、何だろうこの気持ち・・・とても複雑な気持ちになった。

気がつけば、家を飛び出して雨の中を走っていた。激しい雨の中。ずっと・・・

後で姉達が見つけてくれるまで、雨の中を走り続けた。

 



 

 

何日かして、結婚式が開かれた。

親戚一同は喜んでいた。おめでとう、いい相手見つけたねと。

雪村さんの祖父母も喜んで泣いていた。相手が見つかってよかったと。

どうやら雪村さんはずいぶん前に奥さんを亡くしたらしい。そんな話を噂好きのばばあ共が話していたのを偶然聞いた。

という事は、姉は母親になるという事。その息子である、白という子は同思ってるんだろう?

一度も話した事のない相手だけど、少し気になった。俺と、また違う思いを持っている気がしたから。

『ねぇ聞いた?』

『聞いた聞いた、向こうの息子さん。結婚に関して無関心なんですって』

『自分の母親が決まるっていうのに・・・なんでなのかしら?』

『あれじゃない?自分の母親は一人だけだ!!ってタイプ』

『あぁ・・・それって辛いわよねぇ。』

また五月蝿く話し始めたばばあ共の話を、暇つぶし程度に聞いていた。

そうか・・・無関心なのか。カッコいいなぁ、でも可哀想だなぁ・・・正直、そう思った。

母親がいないのは同じ、でもあいつにはもう時期自由の姉という母親が出来る。

自分にはもう無い者を、白はまた手に入れようとしている。羨ましかった。

『結婚、上手くいくのかしら?』

『さぁねぇ・・・なにせ相手は子持ちだし、その子供があれじゃあねぇ』

好き勝手に言う大人達に、子供の事をとやかく言われるのは酷く腹が立った。

今ここで、気持ちを整理しようと思っても無理だ。

姉との別れ、新しい旅立ち、嫉妬、妬み、羨み、尊敬

どれをどうすればいいのか、苛苛は募るばかりだ。

どうしようもない苛苛を自由は地面にぶつけ始めた。地面をずっと蹴り飛ばしている。

靴が汚れて、傷だらけになっている。だけど、そんな事より自分の気持ちだった。

『何、してるの?』

ふと、誰かが話しかけてきた。

『別に・・・何も』

地面を蹴飛ばしているだけ。そう思ったけど、答えるのが面倒だったから適当に言ってみた。

今の自分は、自分を考えるだけで精一杯なのに、誰だよ一体。

そう思って顔を少し上げてみると、そこには雪村白が平然と立っていた。

初めての会話がこれか・・・少し悲しさと虚しさがこみ上げてきた。

だけどこれで少し落ち着きを取り戻し、白に対して言葉を持つことが出来た。

『あんたさぁ・・・姉ちゃんの息子になるんだろう?』

『うん、そうみたい』

淡々と言って見せた答えは、ばばあ共が言ったように無関心さが出ているようにも思えた。

でも・・・

『いいなぁ・・・俺も姉ちゃんの息子になればよかった』

『なっても、同じだよ』

でも・・・違った。無関心なんかじゃなくって、そう見せたがっているだけ。

『・・・そうかなぁ』

『そうだよ。そうなったって・・・同じだよ』

ただ強がっているだけ。大人ぶっているだけ。俺にはそう思えた。

本当は繋ぎとめたくて、甘えたくて・・・だけどそれが壊れていくのが恐くって。

あぁ、俺と似ているけどまったく逆なんだ。鏡に向き合った状態なんだ。

繋ぎとめたくって必死な俺、繋ぎとめたいけど逃げるあいつ。

『離れるなよ』

『は・・・?』

『姉ちゃんから離れるなよ。俺は離れるけど、あんたは離れるな』

『何、意味のわからない事言ってるんだよ。離れるの離れないのは相手の勝手だろう?』

『前まではそうだったかもしれないけど、今度は違う。あんたがしっかりしないと』

もう繋ぎとめたくても無理な自分と違って、白はまだ今から繋ぎとめられるんだ。

まったく話した事もない相手、急にきまった甥っ子だけど・・・そう思える。

『何年かしたら、またこっち戻ってこれるんだって俺』

『え・・・そう、なんだ』

『その時に、ちゃんと繋ぎとめられてるか見に来るから・・・頑張って、白』

それ以上、何も言えなくなって自由は走ってその場から立ち去った。

もう駄目だとわかっていても、これから白が自分の変わりに繋ぎとめてくれたとしても

胸にこみ上げて溢れる涙は・・・止まらなかった。

 


 

 

それから何年かして、久しぶりに日本に戻ってきた。

今日は自信たっぷりな姉の料理を食べれるらしい・・・きちんと胃薬を持ってきたが大丈夫だろうか?

向こうでの生活もだいぶ慣れた。初めは文化や言葉に戸惑ったけど、慣れとは凄いものだ。

おじさんも優しい人だった。気さくに話しかけてくれて『日本は侍魂』が口癖だ。

そうそう、料理も上手なんだ。自分も一緒に料理をしていくつか覚えた。

今日、姉に教えてやろう。きっとまた焦がしてしまうであろう事を予想しながら自由は笑った。

あいつは・・・繋ぎとめられているだろうか?

きっと偉そうに、当たり前だとか抜かしそうだが・・・それはそれで嬉しい事だ。

繋ぎとめてほしくて、自由は白にそれを託した。大丈夫、そう信じて疑わなかった。

繋ぎとめられてるぞ・・・そう偉そうに笑う白の顔を思い浮かべて、自由は家に向かった。

 

 


誰だって、何か繋ぎが欲しいと思う。

でもそれが叶わない時もくる。だけど、それは新たな旅立ちで。

また新たな繋ぎを見つけるんだ。

人はいつも旅をしている。格好悪くとも自分と繋がる何かを見つけるために・・・。

 

 


 


後書き

自由さんバージョンvv
っていうか暗い、暗いよ話><;何故に明るくならない自由サン!!!!
(知らなぃょぉ〜
白バージョンでも言ったんですが、6月といえば結婚式シーズン!!という事で、絶対にしたかったこの話。
自由サンと白の関係をどうしても言いたかった、言いたかったんだYO!!
(うざい
結婚って、当人だけの問題だけだと思っていても、結構まわりに迷惑かけてるんですょねぇ・・・
っていうのも言いたかった
(私談系?
そうそう!!自由サンとお姉さんの年は13歳離れてる計算です。
自由サン8歳+13=姉ちゃん21歳。やっほぃ若いねぇ〜♪
(テンション変
ちなみに白の父は27です。つまり・・・20の息子。ぅん、こっちも若い
(
とりあえず、この話が打ててよかったって事が言いたいんです!!!
(長っ!!
こんな自己満足小説を読んでいただきありがとぅございます。
よろしかったら白バージョンも読んでやって下さいましvv