静かに鳥達は飛び去った
木々達は動きを止めてしまった
水は存在を隠した
太陽は静かに雲から顔を出した
それに気がつくものは
誰もいない・・・

 

 

 

 


『太陽は静かに見守る』
 
 
エルフの目には、自分を包み込む大きな翼が映っていた。
その翼を持つ、一人の少年をエルフは知っている。
少し無愛想な、それでいていつも傍にいてくれた人。安心感があるその表情。
「クー・・・?」
エルフは少年の名を呼ぶと、ゆっくり瞳を閉じた。
 
 
 
 
少女達の無事を確認すると、クーリエは振り返った。
振り返った先は、先ほどの衝撃のおかげで出来た土煙が舞う。
全てを覆う土煙からただ前を見つめる。この衝撃を放った、張本人がいる場所を。
段々煙が薄れて、景色が見えるようになってきた。クーリエが見つめる先もよく見える。
恐怖か、それとも混乱か・・・先ほど構えたポーズのまま、呆気にあけた口。
表情はといえば驚愕に似た歪んだ顔。出てくる言葉は、とてもじゃないが理解する事は出来ない。
「な、なんで・・・なんでなんだ」
先ほどから同じ事の繰り返し・・・クーリエは呆れたようにため息をついた。
この男は何も知らなかったのか、それとも知らされてなかったのか。
 
「・・・あんたの効力、『功』」
クーリエは、一歩一歩前に進んだ。男は同じように一歩一歩下がっていく。
まるで正反対・・・そう、力には対なるものが存在する。
火なら水、光なら闇と・・・なら完璧な力は一体どんな力だ?そんなもの、存在しない。
「『功』・・・自身に存在する力を最大源まで出してくれる力、やろ?」
いつの間にか、倒れていたはずのクラウンが不適な笑みを浮かべこちらに歩み寄っていた。
その視線を感じてか男の顔はもう一度ひきつり、その表情にクーリエは小さくため息をつく。
「そのオーラみたいなんも、自分の気やと思えば簡単や。気合入れた時は自然と何かしらの力を発してるって言われてるらしいしな」
「な・・・何を言って」
男はまだわかってないようだった。クーリエはわざとらしく盛大なため息をつく。
この男は本当に何も知らされていないらしい。
それなのに、こんな馬鹿げた盗賊なんかをしている気が知れない。
「羽根にはな、確認されてるだけでも4つの力が存在する。さっき説明したった「功」の力や、自然の力を借りる「天」の力、それに自らの治癒力を最大源に引き出す「癒」の力」
「・・・それと功の力と対いる力、つまり「守」の力だ。意味、わかるだろう?」
意味・・・それは今の状況の事。
功の力を使っても、倒れなかった存在がここにある。つまり、完璧なる力と思っていた物より遥かに強い存在があるという事。
その存在とは・・・守の力。クーリエの持つ羽根の力だった。
 
「まさか・・・クーリエの力が「守」やったなんてなぁ。早く言ってほしかったわ」
「・・・なんであんたに言わなくちゃいけないんだ?」
平然と会話する二人を尻目に、男はただ震えていた。
何故自分が震えているのか・・・理由はわからない、わかりたくない。
その理由を知れば、自分がここに立っている事が出来ないという事が気付いているから。
「まぁ、まとめるとあんたに勝ち目はない。早よその羽根返してくれへん?」
クラウンは先ほどよりも不適に笑った。男はただその瞳を見て怯えるしか出来なかった。
「だ、誰がっっ!!」
男はまた構えながら力なく叫び、またオーラをクラウン目掛けて飛ばした。
クラウンは、軽いステップでそれをいとも簡単に避けて男の下へと進んでくる。
やはり、先ほどぶつかったのはわざとだったようだ。男も今はそれに気がついている。
「ほんま、えげつないなぁ・・・クーちゃんってば俺を実験台にするんやもん」
「誰がクーちゃんだ・・・!!」
この合間も二人は変わらず会話を繰り返す。実験台・・・羽根の効力を試すためか。
だが、ここまできて引き下がるという事が、この男の頭に浮かぶだろうか?
・・・答えはNO。そんな頭があれば、こんな事になったりはしなかっただろう。
男は、力を使い果たした体に鞭を打ち、彼らの攻撃を生身の体で受け止めようとした。
「これの弱点、実はまだあんねんなぁ〜」
余裕。その言葉が今の彼にもっとも似合うだろう。表情は笑顔を崩さずに、だけど体は簡単に男の攻撃を避けている。
必死に男はクラウンの動きを追うが、結局目で追えきれずクラウンを見失った。
横か、前か、上か・・・男は辺りを見回す。だが見えるのは、土煙ともう一人の少年だけだった。
「弱点・・・そんなものはない!!」
男は小さく舌打ちをし、虚しくも辺りに叫び散らした。
そんな光景をクーリエは、ただ呆れてため息をついていた。
「余裕ぶってんじゃねーぞ、くそ餓鬼!!隙だらけじゃねーか」
狂ったかのように、男はクーリエ向かって走り出す。
男の思考能力は、0に近く落ちていた。もう彼自身を止める鎖などなくなっている。
ただ馬鹿みたいに突っ込んでくる男・・・猪突猛進とはこの事だろうか?
何も考えずに、ただ体の動くがままに行動をする。
クーリエは、それは羨ましい事なんだろうな呟いた。
しかし、正直こういう奴はうざいと考え直しもう一度ため息をついた。そして簡単に男を避ける。
攻撃を避けられた男は躓きそうになりながらも、なんとか体制を取り戻す。
「隙だらけなのはどっちだ・・・」
背筋に冷たいものが走る低い声・・・男は恐怖から動けなくなってしまった。
後ろを振り向けば終わり、そんな気がしたのだ。完全なる力など持ってしても・・・この恐怖には勝てないと。
いや、完全な力などなかった。己の最大の力と羽根の効力を持っても倒せなかった敵。
「・・・まだ気付かへんの?」
そいつらが今、ここにいる。陽気な声で自分に話しかけている。
男が振り返ると、平然と立って笑みを浮かべるクラウンの姿が一瞬だけ映った。
そう、ほんの一瞬だけ・・・。男の目に彼を映すと、すぐに何も見えなくなってしまった。
目の前が真っ暗で、何故か顔全体に痛みが走る。特に鼻の部分なんて痛いもんじゃない。
「弱点はな・・・」
何故男の目の前が真っ暗なのか、何故痛みが走るのか、何故何も見えないのか少しずつわかってきた。
「お前自身の弱さ・・・や」
その言葉を最後に、深く深く・・・男の意識はなくなった。
 
 
「・・・っだぁーー!!こいつの顔なんでこんな固いねん!!?」
クラウンは、男を殴った自らの拳を摩り不思議そうに倒れた男の顔を覗きこんだり、頬を叩いたりしていた。
覗き込んでも叩いても、男の顔が何故固いのかわかるわけもないだろうと思いながらも、あえてクーリエは黙ってため息をついた。
羽根の効力は、自身の心次第。自身が強ければ力も強く、逆に恐怖に負けてしまえば力は半減してしまう。
男の心は、攻撃性で何よりも強さを求めたため「攻」となって現れた。
それを知っていれば、あるいは・・・クーリエは静かに首を横に振った。
 
 
 
 
 
静かに木々が揺れ、小鳥の声がこだまする・・・安息の時間を取り戻したこの場所は
ゆっくりと声をあげ始めた。
 
 
 
 
 
 
 
「う・・・うん?」
視界がとてもまぶしくて、瞳が開けられない。
ゆっくりゆっくり、眩しい光に慣れるまで少し待つ。
「・・・起きたか?」
聞きなれた低く素っ気ない声に、不思議と小さく笑みを零している自分がいた。
「体のほうは・・・大丈夫か?」
「うん、大丈夫。でも・・・ちょっと眩しいかな」
この声はとても安心する。
理由はわからないけど、何故か暖かみを感じる。
「それなら・・・いい」
「・・・何か、らしくないね」
この言葉に君はどういう態度を示してる?
怒っている?照れてそっぽ向いちゃっている?それとも。
ゆっくりと光に慣れた瞳でその光景を見ると・・・やっぱり、不思議そうな顔でこっちを見ていた。
「クー・・・ご心配かけました」
まだ本調子ではない体をゆっくりと起こして、横に座っているクーリエの手を握った。
その手は大きくて暖かい、傷だらけの強い手だった。
エルフの手は正反対の小さな手。
だけども力強く優しい手を、クーリエは強く握り返す。
「これからは・・・無茶、するなよ」
「はい、了解しました」
 
 
 
 
 
 
 
しばらくして、いつもの笑い声が聞こえない事に気がつく。
 
 
 
—————クラウン達がいない————
 
 
 
周りを見渡すが、クラウン達の姿が見当たらない。
兄貴達、盗賊の人達も・・・みんなどこにいったのだろう。
「ねぇ、皆は?」
クーリエはただため息をつき、首を横に振った。
エルフは不安になり、あたりを探し始めようと走り出したが、後ろから自分の手首を掴むものによってそれは塞がれる。
走り出した列車と一緒で、走り出した時に止められると前後に揺れ体制を崩してしまい、
エルフは後ろに立っていた人物の体の中に包まれる。
「あ、ごめん・・・なさい」
「あいつらなら、もうすぐ戻ってくる。だから、ここでじっとしてろ」
はい、と小さな声で返事をして、その場にゆっくりと腰を下ろした。
まだ残っている少しの土煙に目を傷めながら、エルフはクーリエと同じ方向を見つめた。
クーリエのため息には、色んな種類がある。
まだはっきりとわかるわけではないが、呆れたため息がほとんどで、自分を責める時、安心した時・・・
さっきのため息は、一体どれに入るんだろうか。
クラウン達が帰ってくるまでの間、考えておこう。
 
 
 
 
「・・・ぜぇぜぇ、な、なんで俺達、こんなに、走ってるんですか?」
「はぁはぁ・・・し、知らん!!やつに聞け、やつに」
なにやら同じところをグルグルとまわる暑苦しい男共の軍団。
よく見れば、先ほどまで大暴れしていた盗賊の奴らだった。皆体中汗だらけで、息も切れている。
その中でもまだ体力の余裕のある
(といってもかなりヤバイ状況)の男が、兄貴に質問を投げかけていた。
兄貴は答えるのも面倒なのか、本当にわからないのか・・・このマラソンの主導権を握る男を指差した。
そこに立っていたのは、腕組みをした短髪黒髪の男と、その男にしがみついて離れない小さなローブを被った女の子だった。
「おいこら!!ちゃんと走らんと、倍に増やすで〜!!」
「「「へ〜〜〜〜〜い・・・」」」
「もっと元気よ〜く!!」
「「「へーい!!!!」」」
また盗賊達がペースを取り戻し、走り続ける。同じ場所をぐるぐるぐるぐると。
それを不思議とばかりに見つめる女の子=シャイは、黒髪の男=クラウンのズボンを引っ張ってみる。
クラウンは、シャイの方を振り向くと小さく笑ってこう言った。
「あぁ全能の神よ、救いようのない馬鹿達を救えるものなら救ってみやがれってな」
やはりシャイには意味がわからず、でもつられて笑った。
 
それからクラウン達が、エルフ達の所に戻ってきたのは約1時間後だった。
その後ろには、何故か息の切れた男達を連れて・・・。
一瞬エルフはビックリしてクーリエの後ろに隠れたものの、盗賊達の様子を見てこれ以上暴れることなんて出来ないだろうと判断し、無様な格好を堪えきれずに笑い飛ばした。
盗賊達は皆汗だくで、髪はボサボサ、服は乱れてとてもじゃないが見ていられない格好だ。
それに釣られるようにクラウンとシャイ、それに何故か盗賊達もが笑い出した。
ただ一人、クーリエはその場でどうすればいいのかと混乱しているのは誰も知らない。
「太陽・・・笑ってるね」
エルフがクーリエに片目を瞑って小さく呟いた。
空を見上げると、空には大きな太陽が光輝き自分達を照らしていた
 

 

 

 


 
鳥達は歌いだした
木々たちは笑い出した
水は踊りだした
太陽はただ、そんな様子を笑顔で見守っていた
それを知るものは・・・
小さな存在


 

 

 

 


【続く】




 

後書き
  
はぃ、無理やり終わらした感じまるわかりな話ですね・・・
(白目
13話という事で、結構続いてるなぁ・・・と思いました怜です
今回も、ギャグ入れたいなぁと思って入れたつ も り!なんですが・・・どうでしょうか?
(ヤ△`)
甘甘はないの?(にこり)と某管理人()からの伝言があったんですが・・・
甘甘頑張って作りましたよぉーー!!!!
(
と、いう訳で両方入れたつもりです!!
自分的にはこれが限界な駄目駄目なやつなんですが・・・まぢでどうでしょうか?!!
(滝汗

はい、次はシャイちゃんが終わったという事で、また新たな章に進みたいと思います。
あぅ〜・・・もっと上手に話しを書きたいっす><;