待ってるだけじゃ駄目
動かないと始まらない
それが禁断の果実であっても
何も見えずに終わってしまう



『あっぷる』



『またやってるし・・・』
隣で男が呆れ気味にため息をついた。
空は星が輝く綺麗な夜空へと変わっていた。真っ暗な世界を照らす光。
その光の下、男のため息はまた大地におりたった。
『そんな事やって、楽しいのか』
その男の言葉に誰も返事をしなかった。誰も、ではなく、ここにいるのは男を抜いてたった一人。
月明かりに照らされてキラキラと輝く衣を羽織った、何故か大事そうに羽根を見つめる女。
男はもう一度ため息をつくと、近くにあったある物に手を伸ばす。
それは短冊と呼ばれる一枚の紙だった。
『願いが叶う、か。本当に信じているのか』
短冊が風に揺れて、男の手の中で暴れまわっている。
今日は風が強いな・・・男は髪を抑えながら女を見つめた。
女の長い髪は風揺れ、その光沢を露にする。綺麗、という言葉しか思い浮かばない。
風に踊る髪を、女はゆっくりとした動作で整える。そして一回頷いて見せた。
その表情はとても穏やかで、一つ文句でも言ってやろうと思っていた男の口を閉ざした。
『・・・願いが全て叶え、なんて贅沢な事は言いません』
女は初めて口を開いた。その声は小さくとも、この大地に確かに響き渡っていた。
しかし男はそんな女の言葉に顔をしかめ、ゆっくりと近付いていった。
『敬語はなし。そう言ったのはそっちじゃなかったか』
女は少し驚いたように男を見上げ、そして小さく笑った。そうだったね、と男に笑顔を向ける。
そして、今まできちりと座っていた体勢を崩し、今までかしこまっていた物を取り払った。
草木の匂いがする。月が優しく見守っている。風が包み込んでくれている。
女はゆっくりと瞳を閉じ、その場に倒れこんだ。
流石にこの行動には男も驚いて、女に駆け寄った。
『もう今は、何者にも縛られてないもの。これぐらい、いいでしょ』
『まったく・・・あんたの行動は読めない』
それが惹かれあった理由。まったく違う世界の者同士、認められぬ恋。
たった一夜だけ、それだけで二人は繋がっている。
何者にも縛られず過ごす事など不可能だが、この一夜だけは違うと思える。
『ほら、キミも一緒に見ようよ。凄く綺麗なお月様よ』
上半身だけ起き上がらせ、女は無理矢理男をその場に座らせようとする。
その力は強くなくとも、その瞳には勝てなかった。男は言う通りにする事にした。
女は何かに満足したように頷き、また空を見上げた。
空は、星の輝く綺麗な夜空になっていた。
男も同じように空を見上げた。空なんて、こんなにも広かったのだろうか。
星の絨毯が空を埋め尽くしているのに、まだ空は広がり続けている。
こんなちっぽけな世界で縛られているのが、なんだか馬鹿馬鹿しくなってくるのもわかる
『広いよね・・・私ね、いつも空を見上げてるでしょ』
『あぁ・・・そうだな』
『いつかこんなにも広い世界を見て見たいなぁって思ってたの。』
ゆっくりと女は空に向かって手を伸ばす。近くに見えるようで遠い空は、届く事なく存在し続ける。
どんなに大きな羽根を持とうとも、この空だけはいつまでも遠い存在。夢の存在。
女はずっとずっと遠くを掴もうと手を伸ばす。届かないと知りながらも、伸ばし続ける。
それがこの女なのだ。まるで届かない高みへと、諦めることなく挑み続ける。
きっと禁断の果実を差し出されれば、迷う事なく受け取るだろう。
男は、小さく笑うと女の手と重ねて同じように手を伸ばした。二つの手が月に照らされる。
『俺も、同じだ』
『うん・・・一緒に見に行こうよ、世界』
それは無理だとはわかっていた。それがこの者達を縛り付けるものだから。
だけど、もう関係などなかった。立ち止まっていては、この空には届きはしない。
『それが、願いか』
男の手に握られていた短冊が、大きく頷いた気がした。

 
 
世界を見たい。

 
 
彼女の夢、叶えてあげたい。男は静かに目を閉じ、星空に願った。
ただ何もせず立ち尽くしていただけの自分には、女の素直な気持ちは大きすぎた。
大きくて、夢ばかりで。男の気持ちが潰れるくらい、女の心は広かった。
『キミの願いは・・・ふふ、聞いちゃ駄目だったかな』
重ねた手がゆっくりと離れていく。
暖かかった手、女の温もりで溶けていった氷がまた固体化し始める。
名残惜しく、急な孤独感が襲う。
男は離れていく手をもう一度絡み合わせる。離れてしまわないように、強く強く手を差し出した。
離れたはずの暖かさに女はまた驚いて、男の方を向いた。
『これが・・・願い』
この暖かさを失わずにいれればそれでいい。
広い世界も、自分を縛るものを全て捧げるから、これだけは離したくない。
やっと手に入れた本当の温もり。
ただ待つだけだった自分を動かしてくれた、この小さいけれど大きな手を。
『うん、大丈夫。絶対に叶うよ』
男の告白に、少し顔を赤らめながらも女はゆっくり、大きく頷いた。
絡めた手が熱をおびて、なんだか笑みがこぼれる。

 
こうして二人は繋がっていく。
たった一夜な時間でも、とても大きな物となる。
二人を縛るものなど何もない。この月夜の晩がいつまでも続けばいいのに・・・。
人とは欲深いもので、一つの願いだけでは満足できないものだ。
しかし、時に願いは二つで一つとなる事もある。それはとても大きな願いでも同じ。
とても小さな願いでも、繋がっているのだ。
ただ願うだけでは駄目。待っているだけでは、何も始まらない。
例えそれが禁断の果実でも、何も見えずに終わってしまう
 

 
『キミの願い、叶えるよ。絶対に叶えるよ』
女はしっかりと頷いて、絡めた手を強く握り返してくれた。
『あんたの願い、叶えるよ。絶対に』
男はゆっくり微笑んだ。そして暖かい手をいつまでも守り抜こうと誓った。

 
 
 
 
あれから何年の月日が流れようと、それは変わらず存在した。
彼らがこの地を去った後も、それは変わらない。
いつまでも受け継がれ、叶う日を待ち続けている。
『こんなに近くに感じるのに・・・遠いんだね』
一人の少女は、大きく広がる夜空に手を伸ばし続ける。
 








「完」







(後書き)

今回は少し短めのお話で。
題的には「七夕」という事で、作ってみたのですが・・・あまり七夕って感じしないですね(苦笑
ただ七夕にあった出来事って事で多めに見てやって下さい><;
自分なりに、気持ちを前面にぶつけてみた作品ですので何やら変な感じですが。
この話を読んで色々な気持ちを持ってくだされば嬉しいです。