修学旅行・・・それは学生達が待ちに待った一台イベントです!!!
もちろんそれは私も同じ、心うきうきです。
なのに、なのに・・・・
   


  
『修学旅行』
   


  
只今の時刻   11時15分・・・
    


『わぁ・・・大仏さん大きいねぇ』
『大仏なんかに「さん」付けすんじゃねぇよ』
私の第一声の感想を、クラスメートの「羽下赤也君」に悲しくかわされた
大仏さんに「さん」つけちゃいけないなんて、いつ誰が決めたのよ!!
私は思いっきり頬を膨らませ、講義の目を、向けた
が、やはりいくつもの場を潜り抜けてきたベテラン
()赤也君に、効果なんてある訳もなく
『トマトみたいだな・・・』
と笑われてしまった・・・と、トマトって酷い。
 


はい、私達は今奈良の東大寺にある大仏さんを見ています。
修学旅行先は、奈良・京都。これは学校成立以来変わっていません
最近になって、行き先を変えてはどうだろう?という意見がよく出てくるらしいんですが・・・
「予算が足りん!!」との校長の一言で、いつも却下で終わる。
そんなにお金に困ってる学校でもない気がするんだけど・・・。
『でも、な〜んか和やかな気分になるねぇ』
『ねぇ・・・凄く落ち着くよぉ』
私の隣で、思いっきり背伸びをしているのが同じくクラスメートの「菊榎華翠ちゃん」
私達は、滅多にこれないこの土地の空気を思いっきり吸い込んで、和んでいた。
今は修学旅行の季節じゃないのか、そんなに学生は見かけなく、私達にとってはとても気分のいい物だった
『婆みてぇ・・・』
そんな私達に、赤也君が最大的に言ってはいけない事を吐き捨てた
それはとてもとても小さな声であったけど、私達の耳にはちゃんとしっかり聞こえていた
女の耳の凄さをなめてもらっては困るわ・・・
『赤也君・・・?』
『もう一回言ってみてよ・・・』
私達二人は、最高の笑顔で振り向き、威圧をかけた
流石にこれは効いたらしく、赤也君は引きつった笑顔で固まった
これはまるで、蛇に睨まれた蛙であるかのようだった
周りにいた、同校の人達も何故か固まっていた
 
 

 
 
『でも残念だねぇ・・・佐倉、楽しみにしてたのにぃ』
『あんの親父共何考えてやがんだ、まったく・・・』
近くにいた鹿に、鹿煎餅という名のお菓子をあげていると、ふいに華翠ちゃん達が呟いた
その言葉に私は、持っていた鹿煎餅を落としてしまった
その落とした鹿煎餅を、我先にと鹿達が取り合っているのなんて、今の私には見えない
そう・・・確かに楽しみにしていた。
修学旅行といえば、よく少女マンガで読む「先生に内緒でクラスのカップルがデート!!」みたいな事を
もの凄く楽しみにしていた
もちろん、それは私だけじゃなく他のカップルの人達や、これから告白をしようと頑張っている子達も。
なのに・・・なのに!!!
『何でクラス別行動しか許してくれないのよーーーーー!!!!!』
私の悲しくも大きな叫び声を聞いて、近くに群がっていた鹿達が一斉に逃げた
逃げ遅れた子鹿を必死に助けに来る親鹿もいたりした・・・
そ、そんなに怯えなくっても・・・と今更ながらに私は我を取り戻した
『まぁ・・・ほとんどのカップルがクラス別だったいうのもあるだろうな』
どこからか貰ってきたのか、赤也君は鹿煎餅を食べながら器用にもため息をついた
そう、そうなのよ。それを狙って先生はそんな規則を作ったんだわ

 
実は、去年の修学旅行の時にあるカップルグループが、なかなか集合時間になっても帰ってこないという事件が発生。
その後にも、部屋抜け出し事件や合同カップル増加事件・・・と、まぁ色々重なって。
「今度の学年ではこのような事がないように・・・」との、ありがた〜い校長のお言葉があったらしい。
・・・去年のカップル馬鹿野郎
———!!!!私の幸せな時間を根こそぎ奪っていくなんてぇ・・・
『さ、佐倉落ち着いて!いつかチャンスはあるから!!』
私はいつの間にか、怒りのあまり握りこぶしを作ってわなわなと震えていたらしい
その後ろには黒く赤いオーラが漂っていたとかなんとかで・・・。
わ、私の純なイメージがっっ!!!ここに白がいなくってよかったぁ・・・
『佐倉・・・だよな?』
『いやぁぁぁーー!!白見ないでぇーーーー!!』
『???????』
こ、ここここんな所白に見られるだなんて・・・佐倉美青、最大の失・敗!
でも白は意味がわかってないらしくって、頭にクエッションマークを乗せている
白の頭に・・・って、白がどうしてここで首を傾げてるの?
『白・・・何で?』
これはもしかして、神様が可愛そうな私のためにくれた愛の手?
それとも運命という名の、奇跡?DESTINY???
なんて、淡い期待は白の一言で綺麗にこの青空に散りました
『佐倉・・・もう、佐倉のクラス、次の場所、向かったと思うケド』
 


 
『『『えぇーーーーーーー?!!!!』』』
 


 
そ、そんなぁーーー!!!だ、だってだってまだ集合時間まで時間が空き空き・・・
只今の時刻11時15分、集合時間12時20分
『・・・あれ?』
さっきも11時15分じゃなかった?と、置いてけぼりをくらった3人は顔を合わす
その顔が段々険しく変わっていくのを、周りにいた人々全員が確認していた。もちろん白も。
『やっべぇー!!何で誰も気付かねぇんだよ?!』
『そんなの知らないっての!!ほら急げっっ!!』
『あ、二人共待って!!』
そのスピードとは凄いもの・・・運動のまぁまぁ得意な私でも、ついていけるか危うい程
とにかく急がなければ、方向音痴な私は確実に迷う!!
しかし白に、お別れの挨拶と教えてくれたお礼を言おうとして振り向いた時には、もう・・・二人の姿はなかった。
か、完全に置いていかれた!!!!
『ど、どうしよぉ・・・』
『送ってあげるよ。それぐらいならきっと、先生達もとやかく言わないだろうし。』
そ、それは思ってもみないご褒美と思えるお言葉でした
でもでも、白に迷惑をかけたくはないので、必死に断ろうとした。したのだけれど・・・
『でも佐倉、場所知ってる?』
・・・知りません。知ってても行けません。
私のグループのリーダーは、華翠ちゃんで
(じゃんけんで決めた)もちろん場所を知ってるのも彼女だけ。
というのも、私に場所の名前を言っても、きっとわからないだろうという事だったので・・・はい。
悪いですが、白にその場所まで送ってもらう事にしました・・・本当にごめんなさい。
 
 



『佐倉ぁ〜ごめんねっっ!!!』
何とか集合時間内にたどり着けた私は、華翠ちゃんの熱いハグで迎えられた
後ろに立っている赤也君の頬がまた赤くなってたのは、気のせいだろうか?
『・・・大丈夫か?』
心配気に白が赤也君に話かけていた。もちろん返事は「大丈夫じゃない」だった
華翠ちゃんが教えてくれたんだけど、集合場所にたどり着い時に、後ろに私がいない事に気がついたらしい
赤也君は、そんなの知らないとしらを切ったらしいんだけど・・・それにキレた子がいて、頬を一発ぐぅで殴ったらしい。
そんな恐い事出来る子が、華翠ちゃん以外にもいたなんて・・・
『もう一発殴っておけばって思うよ・・・腕がまだまだ殴りたいって怒ってる』
あ、華翠ちゃん本人が殴ったのね・・・。
いちおう私は無事だったし、白とちょっと理由は違ったけど一緒にいれたし、赤也君の事許してあげてと華翠ちゃんにお願いした
佐倉が言うなら・・・ってしぶしぶ納得してくれたみたいでホッとした。のは私だけじゃないみたい。
『それじゃ・・・俺はこれで』
『あ、うん。白、ありがとう』
どういたしまして、といつもの白の笑顔で去って行った
うぅ・・・折角会えたのに、これで終わりなんて儚いよぉ!!!!

 
 
 
『いたた・・・。さ、佐倉・・・さっきは、ご、ごめんな、さい。』
痛々しい頬を摩りながら、通路を挟んで隣の席に座る赤也君が謝ってくれた
その後ろに禍々しいオーラが見えた気がしたけど、気付かないフリをした。
『もういいよ、ちゃんと着けたんだし』
そう、私たちは今、集合場所から宿泊先に向かうバスの中にいる
外の景色は、自然がいっぱいの山が見えてとても綺麗だ
『でもよかったね佐倉、白とちょっとでも会えて』
赤也君の隣に座る華翠ちゃんが、持っていたお菓子を私に渡すときにそう言った
そのお菓子を、赤也君が物珍しそうに眺めている・・・見た事ないお菓子なのかな?
『うん・・・ちょっとだけど、お話もできたし』
もらったチョコレートを口に含み、至福の声を上げる
口の中で溶けていくチョコレートはとても甘く、この世のものとは思えない。
やっぱりその様子を赤也君は物珍しそうに眺めている・・・試しにもらったチョコレートを上げてみると、ヒョイッと一口で食べてしまった。
「あ、甘いな・・・」と、その一言でチョコレートの感想は終わった・・・も、もっとないの?!
『でも、これからあと2日もあるんだぞ?耐えられるかぁ?』
赤也君は私の答えを知ってて、悪戯な笑みを浮かべて聞いてきた。
その後に、横にいる華翠ちゃんに拳骨を喰らってしまった。
耐えられる、といえば嘘になる。だって寂しいもん。
でもこれは規則・・・守らないと来年の子達が可哀想だわ。
『た、耐えられるかなぁ・・・?』
手には、あの甘いチョコが可愛い袋に入れられていた。
甘い・・・白といればとっても甘い気分になる。とても落ち着く。とても大好きな時間。
さっきの白の笑顔が私の脳裏に浮かぶ・・・う、うぅ。
『赤也君の馬鹿ぁーー!!』
私は持っていたカバンを思いっきり赤也君にぶつけると、涙を止めることなく泣き出した
カバンを軽々と受け止めるはずだった赤也君も、私のその行動につい動きが止まって顔面で受け止めてしまった。
その後に、後ろにあった禍々しいオーラが増幅し赤也君の体を包む。
『うぎゃぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!!!』
冷や汗と背筋に冷たいものを感じ、後ろを振り向く瞬間、赤也君の悲鳴と何か別の雄たけびのような声がバスの中に響いた。
私はそれを見向きもせず、ずっと泣き続けた・・・うぅ、寂しいよぉ!!
そんなざわついたバスの中で先生は優雅に眠っていらしたとかないとか・・・。
 
 


 
『『『『羽下・・・安らかにな』』』』
『っておい!!俺まだ死んでねぇよ!!!!』
『あ〜か〜や〜〜!!』
『『『・・・・・ッッッ!!!!』』』
 

 

 

 


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